Friday, August 28, 2009

失われた科学の知見(物理科学、エンジニアリングのエディター)

およそ紀元前100年ごろ、Antikythera の沖合いで船が一隻沈没しました。そこはギリシャ本土とクレタのあいだです。実はこの船には天空をあらわす美しいオブジェが載せられていました。このブロンズ製のモデルにはギア、ポインタ、ダイアルなどがあり、天体に関する情報を示すものでした。おそらく太陽、月、および当時知られていたであろう5つの惑星、日食、月食の位置に加えて目立つ星の見えるタイミング等が含まれていたと考えられます。

2100年前に海の底に沈んだこのオブジェは1901年まで日の目を見ることはありませんでした。この年に遂に引き上げられたのです。おどろくべき発見でした。メカニズム部分はすっかり腐食、破壊が進んでいたので再構築は難解なパズルのようなものだったそうです。ここ110年で進んだ科学も手伝い研究が進みました。誰が何のために製作したのかはこの先も闇の中でしょう。それでも研究者はその構造について調べ続けています。

メカニズムを調べると、どうやらこれは暦及び天球上でおこることを計算するためのものらしいことが分かりました。しかも携帯できるよう構造はコンパクトになっています。今で言えば特別なアプリを載せたノートパソコンといったところでしょうか。iPhoneに天球儀ソフトを載せたものとも似ています。最終的な構造についてはいくつか説があり、計算可能範囲もオブジェの形も違います。測定器としての役割以外にも天文学を教える上の便利なツールとして使われた可能性もあります。

ただ、このオブジェの構造がかなり洗練されていてプロトタイプとは思えないことから、当時珍しいオブジェだったとは考えられていません。これが海に沈んだからと言ってそのテクノロジーが闇に埋もれたというほどの影響はなかったはずです。ただ機械仕掛けの巧妙さによる軽量化、緻密さはこの後何百年も現れませんでした。それに加え当時ほんのわずかの人々が理解していたであろう天体の動きや周期に関しても詳細にその深さがうかがい知れるという意味では貴重な資料と言えます。

Antikytheraメカニズムはその遺失と再発見に関するロマンチックな話をさておいてもいくつか興味深い点があります。当時の天体に関する知識が凝縮されている点、このメカニズムの原作者の意図が伝わってくる点、当時の知見に驚かされる点、そして最近の科学がようやく可能にしたコミュニケーションの大切さを再認識させてくれる点です。サイエンスコミュニティーは国際化が進んでいます。Antikytheraメカニズムのデザイナーが思いもよらない知識の共有が可能となったのです。電子化による共有の加速があればこのオブジェのように失われる知見は今後ないのではないでしょうか。こう考えるとAntikytheraからいろいろなことが感じられてその深みにはまってしまう自分です。

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